商品やサービスの品質だけで他社と差異化することが難しくなった今、コールセンターの応対品質は企業の評価を左右する重要な要素になっています。一方で、人手不足や問い合わせの複雑化により、従来の体制のままで顧客体験を維持・向上させることは厳しい状況です。本記事では、コールセンターの顧客体験が重視される背景から、定量的に把握するための評価指標、具体的な改善策、AIを活用した向上方法、企業の導入事例までを解説します。
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1.コールセンターの顧客体験向上が重要視される背景

コールセンターの顧客体験向上が重要視される背景には、市場環境と労働環境の両面の変化があります。まず前提となる体験価値の差異化から見ていきます。
(1)体験の拡散が企業評価に直結する
消費者庁『消費者意識基本調査』(令和5年度)によると、インターネット利用者の63.9%が「評価の点数が高くても、否定的な口コミを見て購入をためらうことがある」と回答しています。また、36.5%が「メーカーや販売者による商品説明よりも、口コミの評判を重視する」と回答しており、企業自身の発信よりも第三者の評価が購買判断を左右する状況が生まれています。
つまり、否定的な評価は少数であっても新規顧客の購買判断を押しとどめる力を持ちます。「電話がつながらない」「たらい回しにされた」といった応対への不満は、まだ接点のない潜在顧客の獲得機会をも失わせる可能性があるため、応対品質は企業の重要な経営課題として認識されます。
(2)悪い応対体験が解約・離反に直結する
サブスクリプション型サービスの拡大により、顧客はいつでも他社へ乗り換えられるようになりました。問い合わせ時の長い待ち時間、何度も同じ説明を求められる体験、解決までに複数回の連絡を要する状況は、顧客のストレスを増大させ、解約・離反の引き金になります。
この問題は、すでに広範な消費者体験として表面化しています。
消費者庁『消費者意識基本調査』(令和5年度)では、インターネット利用者の42.6%が「解約方法が電話限りなのに、つながらないことがある」と回答しました。また、この1年間にオンラインモールでトラブルに遭遇した人のうち、40.3%が「納得のいく解決ができなかった」と答えています。問い合わせ窓口で解決に至らなかった体験は、4割の顧客に残っている計算になります。
窓口で解決できなかった顧客が、そのまま取引を継続するとは限りません。新規顧客の獲得には広告費や営業工数を要する一方、既存顧客の維持は応対品質の改善によって図れるため、応対体験の悪化による離反は収益面でも看過できない損失をもたらします。
以下の記事では、コールセンターの応対品質について詳しく解説しています。

(3)人手不足により応答率・応対品質の維持が困難になりつつある
コールセンター業界では、採用難と高い離職率による慢性的な人手不足が続いています。オペレーターの確保が難しくなると、応答率の低下や待ち時間の長期化を招き、それがさらなるクレーム増加とオペレーターの負担増につながる悪循環に陥ります。
限られた人員で応対品質を維持・向上させるためには、業務の効率化と自動化を前提とした体制の再設計が不可欠になっています。
人手不足が深刻化するなか、近年はAIによる効率化が注目されています。以下の記事では、コールセンターにおけるAI導入について包括的に解説しています。

2.コールセンターの顧客体験を評価する指標

顧客体験の改善には、現状を定量的に把握するための指標(KPI)の設定が欠かせません。ここでは、顧客視点の指標と運用面の指標をあわせて6つ紹介します。
(1)CSAT(顧客満足度スコア)
CSAT(Customer Satisfaction Score)は、応対直後のアンケートなどで「今回の対応にどの程度満足したか」を尋ね、5段階評価などで数値化する指標です。個別の応対に対する満足度を直接測定できるため、オペレーター単位・応対単位での品質評価に適しています。
応対後のSMSやIVRアンケートで継続的に収集し、スコアが低い応対の録音を分析することで、具体的な改善ポイントを特定できます。
(2)NPS(ネットプロモータースコア)
NPS(Net Promoter Score)は、「この企業(サービス)を友人や同僚に薦める可能性はどの程度あるか」を0〜10点で尋ね、推奨者(9〜10点)の割合から批判者(0〜6点)の割合を差し引いて算出する指標です。
CSATが個別応対への満足度を測るのに対し、NPSは企業やブランド全体への愛着・推奨意向を測定します。収益成長との相関が高い指標とされており、コールセンターの応対がブランド全体の評価にどう影響しているかを把握するのに有効です。
(3)CES(顧客努力指標)
CES(Customer Effort Score)は、「問題解決までにどの程度の労力を要したか」を測定する指標です。何度も電話をかけ直す、部署をたらい回しにされる、同じ説明を繰り返すといった「顧客に強いる手間」を数値化します。
顧客ロイヤルティの向上には「感動的な体験の提供」よりも「手間なく解決できる体験の提供」が効果的であるという考え方が広がっており、CESは顧客体験改善の実務において重視度が高まっている指標です。

(4)FCR(初回解決率)
FCR(First Call Resolution)は、顧客の問い合わせを最初のコンタクトで解決できた割合を示す指標です。FCRが高いほど顧客の手間は減り、CSATやCESの改善にも直結します。
また、FCRの向上は再入電の削減を意味するため、コールセンター全体の呼量削減・コスト削減にも寄与します。顧客体験と運営効率の双方に効く、優先度の高い指標といえます。
(5)ASA(平均応答速度)
ASA(Average Speed of Answer)は、着信からオペレーターが応答するまでの平均時間を示す指標です。「電話がつながらない」ことは顧客の不満要因の筆頭であり、ASAの悪化は放棄呼(途中で切電される呼)の増加に直結します。
応答率とあわせてモニタリングし、時間帯別・曜日別の入電傾向に応じた人員配置やAIによる一次対応の導入を検討する際の基礎データとなります。
(6)AHT(平均処理時間)
AHT(Average Handling Time)は、通話時間・保留時間・後処理時間を合計した、1件あたりの平均処理時間です。AHTの短縮は対応可能な件数の増加につながり、待ち時間削減を通じて顧客体験の改善に寄与します。
ただし、AHTの短縮を過度に追求すると応対が拙速になり、FCRやCSATを悪化させるリスクがあります。AHT単独ではなく、FCR・CSATとのバランスで評価することが重要です。
3.コールセンターの顧客体験を向上させる改善策

評価指標で現状を把握したうえで、具体的な改善策に取り組みます。ここでは、実務で効果を上げやすい5つの施策を紹介します。
(1)VOC分析とカスタマージャーニーマップで改善点を可視化する
VOC(Voice of Customer:顧客の声)分析は、通話録音・アンケート・チャット履歴などから顧客の不満や要望を抽出し、改善につなげる取り組みです。問い合わせ理由(コールリーズン)を分類・集計することで、「そもそも問い合わせを発生させている原因」を特定できます。
さらに、認知から購入・利用・サポートまでの顧客行動を時系列で整理したカスタマージャーニーマップを作成すると、どの接点で顧客がつまずいているかを俯瞰的に把握できます。VOCの定量データとジャーニーマップの俯瞰視点を組み合わせることで、優先的に改善すべきポイントが明確になります。
以下の記事では、コールセンターにおけるVOC分析について詳しく解説しています。

(2)FCR向上に向けてナレッジ整備・オペレーター教育を行う
初回解決率を高めるには、オペレーターが必要な情報へ迅速にアクセスできる環境の整備が不可欠です。FAQ・応対マニュアル・過去の対応履歴をナレッジベースとして一元化し、検索しやすい形で常に最新の状態に保ちます。
あわせて、ロールプレイングやモニタリングフィードバックによるオペレーター教育を継続的に実施し、応対スキルの底上げと標準化を図ります。ナレッジ整備と教育はどちらか一方では効果が限定的であり、両輪で進めることがFCR向上の近道です。
(3)待ち時間を削減し、チャネルを最適化する
待ち時間の削減には、入電傾向に基づく適切な人員配置に加え、コールバック予約機能やビジュアルIVRの導入が有効です。混雑時に「折り返し電話」を選択できるだけでも、顧客の体感ストレスは大きく軽減されます。
また、電話だけでなくチャット・メール・FAQサイトなど複数チャネルを整備し、問い合わせ内容に応じて最適なチャネルへ誘導することで、電話への呼量集中を緩和できます。簡易な質問はセルフサービスで解決し、複雑な相談は電話で丁寧に対応するという役割分担が、全体の顧客体験を向上させます。
(4)CRM連携で顧客に合わせた応対を実現する
CTIとCRM(顧客管理システム)を連携させると、着信と同時に顧客情報・購買履歴・過去の問い合わせ履歴が画面に表示されます。オペレーターは顧客の状況を把握したうえで応対を開始できるため、「毎回同じ説明をさせられる」という顧客の不満を解消できます。
(5)AIを活用して顧客対応を効率化する
近年、顧客体験向上の切り札として注目されているのがAIの活用です。
ただし、AIによる顧客体験の改善効果は、実際の応対品質に大きく左右されます。
機械的で不自然な音声や認識精度の低さは、かえって顧客のストレスを増大させるためです。導入を検討する際は、カタログスペックではなく実際の応対を体験したうえで判断することが重要です。
株式会社ストラーツの「電話応対AIサービス」は、注文受付・配送状況確認・予約変更といった定型対応をAIが24時間365日代行します。AI技術による流暢で自然な音声は、デモ専用番号(050-1724-1373)からその場でご体験いただけます。導入後もシナリオ修正や設定変更を担当エンジニアがフルカスタマイズで伴走するため、運用しながら応対品質を高め続けられます。

4.AIを活用してコールセンターの顧客体験を向上させる方法

AIの活用方法は多岐にわたりますが、顧客体験の向上という観点では、次の5つのアプローチが効果的です。
(1)AI電話応答で24時間対応を実現する
AI電話応答(ボイスボット)は、音声認識と自然言語処理により、顧客の発話内容を理解して自動で応対するシステムです。営業時間外や休日、繁忙期の入電集中時にも一次対応を行えるため、「電話がつながらない」という最大の不満要因を解消できます。
注文受付・予約変更・資料請求といった定型的な手続きであれば、AIだけで完結させることも可能です。顧客は待たされることなく用件を済ませられ、オペレーターは複雑な相談に集中できるため、顧客体験と業務効率の双方が向上します。
(2)音声認識AIでVOC分析を効率化する
音声認識AIを導入すると、全通話を自動でテキスト化し、データとして蓄積・分析できます。従来は一部の通話をサンプリングして人手で確認していたVOC分析を、全件・網羅的に実施できるようになります。
問い合わせ理由の傾向分析、クレームの予兆検知、NGワードのチェックなどを自動化することで、応対品質の改善サイクルを高速化できます。感情解析AIと組み合わせれば、顧客の不満をリアルタイムに検知し、管理者が即座にフォローに入る体制も構築可能です。
コールセンターにおけるAIでの音声認識については以下の記事で詳しく解説しています。

(3)CRMとAIを連携し顧客に合わせた応対を実現する
AIとCRMを連携させると、顧客一人ひとりに最適化された応対を自動化・高度化できます。たとえば、AI電話応答が発信者番号から顧客を特定し、契約状況に応じた案内を行う、有人対応への引き継ぎ時にAIがヒアリング内容を要約してオペレーターへ受け渡す、といった運用が可能です。
顧客は同じ説明を繰り返す必要がなくなり、オペレーターは事前情報をもとに的確な応対を開始できます。AIによるパーソナライズは、CESの改善に特に効果を発揮します。
(4)AIで後処理業務を効率化する
通話終了後の応対記録の作成(後処理)は、AHTを押し上げる大きな要因です。生成AIを活用すれば、通話内容の要約・応対記録の下書き作成を自動化でき、後処理時間を大幅に短縮できます。
後処理が短縮されると、オペレーターが次の呼び出しに出るまでの時間が短くなり、結果として顧客の待ち時間削減につながります。また、記録作成の負担軽減はオペレーターのストレス緩和・離職防止にも寄与し、経験豊富な人材の定着を通じて応対品質の維持にも効果があります。
(5)AIと有人対応を適切に使い分ける
AI活用の成否を分けるのは、「AIに任せる領域」と「人が対応すべき領域」の線引きです。定型的な問い合わせや手続きはAIで自動化し、クレーム対応・複雑な相談・感情面のケアが必要な場面は人が担うという役割分担が基本となります。
重要なのは、AI対応から有人対応へのシームレスな引き継ぎ設計です。AIで解決できない場合に速やかにオペレーターへつなぎ、それまでの対話内容を引き継ぐ仕組みがあれば、顧客に「AIをたらい回しにされた」という不満を抱かせずに済みます。AIはあくまで顧客体験を高める手段であり、自動化率だけを目的化しない設計思想が求められます。
5.コールセンターのAI導入で顧客体験を向上させた事例
(1)ヤマト運輸|AI電話応対で待ち時間を削減し「つながるコールセンター」を実現

ヤマト運輸では、新型コロナウイルス感染症対策によるコールセンターの人員縮小と、入電集中時のつながりにくさが課題となっていました。
そこで、法人顧客からの集荷依頼に音声応対AIを導入し、集荷場所や希望時間の聞き取りを自動化しました。有人対応を補完することで電話の待ち時間を削減し、迅速に依頼できる環境を整備しています。
参考:https://www.yamato-hd.co.jp/news/2020/news_201104.html
(2)住信SBIネット銀行|生成AIによる電話自動応対で待ち時間を解消

住信SBIネット銀行では、電話窓口の待ち時間や営業時間外に問い合わせへ対応できないことが課題となっていました。そこで、生成AIを活用したバーチャルアシスタントによる電話自動応対を導入し、2025年には対応窓口を拡大しています。
AIがお客さまを待たせることなく対話形式で案内し、必要に応じてオペレーターへ引き継ぐことで、待ち時間の改善と営業時間外の自動応答を実現しました。
参考:https://www.netbk.co.jp/contents/company/press/2025/0627_003972.html
(3)三井住友海上火災保険|AI電話応答で24時間365日の事故受付を実現

三井住友海上火災保険では、台風や地震などの自然災害発生時には事故受付への電話が集中し、コールセンターの受付体制がひっ迫することや、感染症の拡大により担当者が出社できない状況でも受付を継続することが課題となっていました。
そこで、自動車保険の単独事故を対象にAI音声による自動受付サービスを導入し、24時間365日対応できる体制を強化しています。
AIが事故内容を聞き取り受付を完了することで、大規模災害などで入電が急増した場合でも迅速な受付が可能となり、利用者が必要なタイミングで事故連絡できる環境を実現しました。
参考:https://www.ms-ins.com/news/fy2023/pdf/0202_1.pdf
(4)ライフネット生命保険|AIボイスボットで待ち時間を削減し24時間受付を実現

ライフネット生命保険では、従来のIVRでは問い合わせ内容ごとにプッシュ操作が必要で、オペレーターにつながるまでの待ち時間が長くなることや、営業時間外は対応できないことが課題となっていました。
そこで、対話型AIとAIボイスボットをコンタクトセンターへ導入し、AIとの自然な対話を通じて適切な窓口へ案内する仕組みを構築しています。
これにより、待ち時間の短縮と応対品質の向上に加え、生命保険料控除証明書の再発行については24時間365日の受付を実現しました。
参考:https://ir.lifenet-seimei.co.jp/ja/news/index/auto_20251107592011/pdfFile.pdf
(5)大阪市|AI電話で24時間365日いつでも問い合わせできる環境を整備

大阪市では、住民登録に関する定型的な電話問い合わせが多く、開庁時間外や回線が混雑する時間帯には対応できないことが課題となっていました。
そこで、区役所DX推進事業の一環としてAI電話による自動応答システムを導入し、24時間365日いつでも問い合わせできる環境を整備しています。
AIが住民登録に関する定型的な質問へ自動で応答することで、曜日や時間帯、電話回線数に左右されず案内を提供できる体制を構築しました。
6.まとめ
コールセンターの顧客体験を向上させるには、CSATやFCRなどの指標で現状を把握し、VOC分析やナレッジ整備などの改善を継続することが重要です。AI電話応答や音声認識AI、生成AIを活用することで、待ち時間の短縮や24時間対応、業務効率化を実現できます。
株式会社ストラーツの「電話応対AIサービス」は、AIによる電話一次対応の自動化をはじめ、24時間365日対応、既存システムとの連携、会話内容のテキスト化などにより、待ち時間の短縮や応答体制の拡充を支援します。




